防食概論:防食の基礎
☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(防食の基礎)” ⇒
防食設計と分類
防食法の分類
【腐食の開始と継続】で解説したように腐食(corrosion)の起こり易さとその速さは,金属の表面活性の違い,金属表面の濡れ,酸素などの拡散や酸化還元反応(oxidation-reduction reaction),化学反応にともなう電位・電流(電荷の移動)に影響される。
このことは,腐食反応に関わる過程の何れかの抑止・抑制で防食(corrosion prevention, corrosion protection)が可能であることを意味する。
水と接触した金属の表面では,【腐食は化学反応】などで示したように,金属表面の別々の場所に発生したアノード(anode)とカソード(cathode)で次に示す電極反応(electrode reaction)が起きる。
アノード反応: M → M2++2e- (金属の酸化,イオン化)
カソード反応: 2H2O+O2+4e- → 4OH- (酸素の還元)
アノード部では,金属イオン( M2+)の生成と電子( e-)を放出する酸化反応(oxidation reaction)が起きる。
カソード部では,アノード反応と同時に,酸素( O2)と水( H2O)の存在下で,アノード反応で生成した電子の消費により水酸化物イオン( OH-)を生成する還元反応(reduction reaction)が起きる。
模式的には,金属表面のアノード部で生成した電子がアノード部からカソード部に向って金属内部を移動する。これと対を成すように,金属表面に付着した水膜(電解液)中を,電子の移動に見合う電荷(イオン)が移動する。
これにより,金属内部と接触する水膜とに電気回路が成立し,腐食反応が継続する。
ここで説明した腐食機構から分かるように,腐食反応を抑制するには,腐食反応に直接的に働きかける方法と間接的に働きかける方法とに分けられる。
直接法は,① 置かれた環境でアノード反応が進まない金属への変更,すなわち適用個所の環境因子に応じた耐食性の高い材料へ変更する方法(【適正材料の選定】),
② 金属表面のアノード反応,カソード反応を電気化学的(electrochemistry)な環境を制御し抑制する方法(環境制御【電気化学的】)に分けられる。
間接法は,③ 金属の腐食反応の継続に必要な環境成分(上の例では,酸素,及び/又は水)を物理的に遮断する環境遮断,
④ 金属の腐食反応に必要な環境成分を積極的に除去する環境制御【構造対策】に分けることができる。
【参考】
酸化還元反応(oxidation-reduction reaction)
反応物から生成物が生じる化学反応において,物質間で電子の授受のある反応である。酸化還元反応では,ある物質の酸化過程と他の物質の還元過程が並行して進行する。すなわち,一般にいうところの「酸化反応」と「還元反応」は,対象物質を見る立場で,現象の説明を容易にするために用いる便宜的な用語であり,それらを別個に扱うことはできない。
電気化学(electrochemistry)
化学変化に伴う電気的現象,又は電気の関与する化学変化について研究する化学の一部門。電池・電極反応・電離などの理論および応用を研究。
電極(electrode)
電気化学では,広義には金属などの電子伝導体の相と電解質溶液などのイオン伝導体の相とを含む少なくとも二つの相が直列に接触している系(電極系ともいう)。狭義にはイオン伝導体に接触している電子伝導体の相。【JIS K 0213「分析化学用語(電気化学部門)」】
電極を示す名称には,カソード・アノード,正極(+極)・負極(-極),陰極・陽極などの名称が使われている。特に,陰極・陽極の用語は,技術分野で示す意味が異なり,混乱した使用例が見られるので,注意が必要である。
電極反応(electrode reaction)
電極と電解質溶液,溶融塩などのイオン伝導体との間で起こる少なくとも一つの電荷移動過程,及びそれに伴って電極近傍で起こる物質移動,化学反応などの全ての過程。狭義には,電荷移動過程だけをいう。【JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」】
電極反応には,電極と電解質で構成される系,電極と電解質溶液で構成される 2 つの系があり。問題(研究対象)とするのは,電解質,又は電解質溶液全体で均一に進む現象ではなく,電極との界面で生じる酸化還元反応,すなわち不均一系の反応である。
アノード(anode)
電流が電極から電解質に向かって流れ,酸化反応が行われる電極。陽極ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
カソード(cathode)
電流が電解質から電極に向かって流れ,還元反応が行われる電極。陰極ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
ページのトップへ